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民事信託の基礎知識

家族信託(民事信託)とは

平成18年(2006年)、わが国の信託法が大改正されました(翌平成19年施行)。

大正時代に制定されたそれまでの信託法は、商事信託(信託銀行など)を念頭に置いた法律でしたが、この大改正により、家族信託(民事信託)という方法により、一般の方が、家族等の信頼できる人に財産を託して(信託)、自分の財産の管理と承継の道すじを自分が元気なうちに作っておく、ということが可能となったのです。

ご本人が元気なうちに、家族など信頼できる人との間で信託契約を交わし、財産(不動産・預貯金など)の名義を、ご本人(委託者)から信頼できる人(受託者)に移しておきます。
こうすることで、ご本人がその後認知症等で判断能力を失った場合でも、当初の契約で定めた目的に従い、受託者の方の判断で財産の管理・運用・処分をすすめていくことができます。

そもそも信託とは

基本的な登場人物は3者です。

委託者: 財産のもともとの所有者・財産を託す人
受託者: 財産を託され、管理・運用・処分する人
受益者: 財産の運用・処分から出た利益を受ける人

 

委託者が、一定の財産を、一定の目的(『受益者の幸福な生活と福祉を確保』、『資産の適正な管理運用を通じて次代への円滑な資産承継を図る』など)のために、名義と管理だけ受託者に移す、といったイメージです。
例えるなら、委託者が今まで有していた『所有権』というものが一つのゆで卵としますと、信託した後は、卵の殻(名義)と卵の白身(管理処分権)は受託者に、卵の黄身(収益権)は受益者に、それぞれ分離してくっつくようなイメージとなります。

信託の起源

中世ヨーロッパ、十字軍のイスラム征伐時代、十字軍に参加する兵士が留守宅に残した家族のために、財産を信頼できる友人に託して運用してもらい、生活費として家族に渡してもらう、という契約をするようになりました。
これが英米法における信託の起源である、と言われています。

信託の分類(民事信託と商事信託)

信託は、大きく分けて、商事信託と民事信託に分かれます。
皆様方にもなじみのある投資信託などは、商事信託に分類されます。

商事信託: 受託者としての仕事を営利目的で(=商売として)行うもの

受託者となるのは信託銀行や信託会社に限られます。
例:投資信託、教育資金贈与信託、特定贈与信託など

民事信託: 受託者としての仕事を非営利目的で行うもの。

受託者となるのは家族が多い。そのため「家族信託」とも呼ばれます。
※専門職(司法書士・弁護士等)が仕事として受託者になることはできません。

信託の分類(自益信託と他益信託)

信託は、委託者と受益者が同一人物である信託(自益信託)と、委託者と受益者が別人である信託(他益信託)とに分かれます。

自益信託

委託者=受益者(両者が同一人物)となっているもの

他益信託

委託者≠受益者 となっているもの

日本では、税制の関係で、信託契約時点ではほとんどが自益信託となっています。これはどういうことかというと、もしも他益信託の信託契約をすると、その時点で委託者から受益者に対し財産の贈与がなされたものとみなされ、多額の贈与税が受益者に課されることとなってしまうため、通常そのような信託契約にはしない、ということです。

ちなみに、委託者兼受益者の死亡により、受益権が第二次受益者に移った場合(そのような契約の定めにしていた場合)は、相続又は遺贈により第二次受益者が財産(所有権)を取得したものと税法上みなされ、第二次受益者には相続税が課されることとなります。

信託の独自の機能

信託法という特別法の世界では、民法(一般法)の世界にはない、独特の機能が認められています。

意思凍結機能

信託契約時の委託者の意思を、その後の委託者の判断能力喪失や 死亡によっても影響を受けず、長期間にわたって維持できる機能です。
⇒ これによって受益者連続型信託が可能となります。

税制上のパス・スルー機能

委託者から受託者に名義を移しても、贈与税や不動産取得税、譲渡所得税などは一切かかりません(税制上、受託者の存在は無視される)。不動産を信託した場合、登記の登録免許税はかかりますが、贈与の場合の登録免許税の税率の5分の1で済みます。

倒産隔離機能

一度、信託財産になってしまえば、委託者や受託者の破産等の影響を受けず、委託者や受託者に対する債権者は、信託財産を差し押さえることはできません(但し、自益信託の場合、受益者の受益権は差し押さえの対象となります)。

但し、この信託の強力な権能を債権逃れなどのために悪用することは違法行為であり決して許されませんので、ご注意ください。

受益者連続型信託(信託法91条)とは

当初の受益者の死亡により、その受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託をいいます。
これにより、遺言では実現不可能であった、親から子に、子から孫に、という数世代にわたる財産承継をあらかじめ定めておくことが可能となりました。
(=戦前の家督相続を現代において実現できるのです。)

家族信託(民事信託)でできること

信託を活用すると、例えば以下のようなことが可能になります。

・高齢の親の財産(不動産・預貯金)を、親に代わって息子が管理・処分したり、親が認知症になった後も、親の財産を使って相続税対策を実効したりすることができます(親が認知症になった後も、成年後見制度を使うことなく親の財産を管理・処分できます)。
・自分が死亡した後の財産の帰属先を、次の次まで指定しておくことができます(遺言では、財産の次の帰属先は指定できますが、次の次まで指定することはできません)。
・親(自分)が認知症になったり、死亡した後も、信頼できる親族や友人に託した財産を使って、障がいを持つ子供の生活を支援していくことができます。

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